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Cardputerが切り拓く「所有から始まる」ハードウェア開発文化:世界的なヒットの背景を探る

スイッチサイエンスさんのなぜCardputerは世界で一番売れるM5Stack製品になったのか——英語圏で広がる「小さなコンピュータ」文化という記事を読み、ハードウェアの普及プロセスがかつてとは少し違うフェーズに入っているのではないかと感じ、自分なりにその背景を整理してみました。

海外でもM5Stack、人気が出てきているみたいですね。


M5Stackといえば、もともとは日本が最大の市場だったという印象をお持ちの方も多いかもしれません。実際、数年前までは世界売上の3分の1以上を日本が占めていた時期もありました。しかし、直近ではその勢力図が大きく変わっているようです。

世界市場におけるM5Stackの急成長

まず、現在の市場状況を簡単に見てみましょう。日本市場も着実に成長していますが、それ以上にグローバル、特に英語圏での伸びが凄まじいことになっています。

項目 2019年ごろの状態 現在(2024年以降)
日本市場の売上比率 約35%(世界最大) 15%以下
世界全体の売上成長 安定成長 毎年ほぼ倍増に近いペース
日本での人気製品 M5Stack Basic 等 M5Stack Basic / Stick C シリーズ
世界での圧倒的1位 (当時はBasic等) Cardputerシリーズ

日本での順位が「開発ボード」としての側面が強いBasicやStick Cであるのに対し、世界で最も売れているのが「Cardputer」であるという点は、非常に興味深い違いです。

Cardputerとはどのようなデバイスか

Cardputerは、一言で言えば「カードサイズのオールインワン・コンピュータ」です。マイコンボードというよりは、すでに「完成されたガジェット」に近い外観を持っています。

主なスペックや機能は以下の通りです: - SoC: ESP32-S3 - 入力: 56キーの物理キーボード - 出力: カラー液晶画面、スピーカー - 通信・その他: Wi-Fi/Bluetooth、赤外線送信機、マイク、microSDスロット、内蔵バッテリー

これだけの機能が手のひらサイズに凝縮されており、一応これ単体で「コンピュータ」として完結しています。

「目的」よりも先に「デバイス」がある文化

従来のハードウェア開発は、「これを作りたいから、この基板を買う」という目的先行型が一般的でした。しかし、Cardputerに関しては、その順序が逆転しているように見えます。

以下の図は、Cardputerがどのようにユーザーに受け入れられているかの流れをイメージしたものです。

flowchart TD
  subgraph Traditional["従来の開発モデル"]
    A["解決したい課題<br>(例: 温湿度を測りたい)"] --> B["適切なハードの選定<br>(M5Stack Basicなど)"]
    B --> C["実装・完成"]
  end

  subgraph Cardputer["Cardputer型モデル"]
    D["デバイスの所有<br>(カッコいい、面白そう)"] --> E["何ができるかの探索<br>(Cyberdeck, セキュリティツール)"]
    E --> F["コミュニティの成果を試す<br>または自作する"]
  end

  C -.-> G["実利目的"]
  F -.-> H["体験・文化目的"]

英語圏では、こうした小型の自作コンピュータを「Cyberdeck(サイバーデッキ)」と呼んだり、あるいは実用的なPDA(携帯情報端末)やセキュリティ学習用のツールとして楽しむ文化が根付いています。

「何に使うかは決まっていないけれど、このデバイスを触ってみたい」と思わせる魅力が、Cardputerには備わっているのかもしれません。

組み込み開発の新しい波との親和性

最近では、組み込みシステムの世界でもRust言語の採用や、WebAssembly(Wasm)をマイコン上で動かす試みが活発になっています。たとえば、Cardputerのようなキーボード付きのデバイスは、こうした新しい技術スタックを試す「遊び場」として最適です。

簡単なコードでキー入力を受け取り、画面に文字を出す。そんな昔のマイコン少年が楽しんでいたような体験が、現代の洗練されたSoCと開発環境で再定義されているように感じます。

// Cardputerでの開発イメージ (Rustの擬似的なコード)
fn main() {
    let mut peripherals = Peripherals::take().unwrap();
    let display = CardputerDisplay::new(peripherals.spi2);
    let keyboard = CardputerKeyboard::new(peripherals.i2c0);

    loop {
        if let Some(key) = keyboard.get_key() {
            display.print_char(key);
            // 赤外線で家電を操作する、などの拡張も考えられます
        }
    }
}

実際に触ってみると、キーボードの「カチカチ」とした感触や、マグネットで壁に貼り付くギミックなど、スペック表には現れない「触り心地の良さ」が所有欲を満たしてくれます。

まとめ

Cardputerが世界一売れるM5Stack製品になった理由は、それが単なる「部品」ではなく、ユーザーの想像力を刺激する「文化的なプラットフォーム」として機能しているからではないでしょうか。

「作りたいものがあるから買う」のではなく、「手に入れたから、何かを作りたくなる」。そんな風に、ハードウェアから新しいインスピレーションをもらうのも、エンジニアとしての楽しみ方の一つかもしれません。

こちらをご覧の皆さんも、もしデスクの隅にCardputerが置いてあったら、どんなソフトウェアを動かしてみたいと思うでしょうか。そんな想像をしてみるだけでも、少しワクワクしてくるかと思います。

参照記事